at night

 夜更けに、母から送られてきた手紙を読んだ。
 便箋三枚に、三十八年分のいきさつがしたためられていた。
 僕が知りたかった父と別れた後の人生については触れられていなかったが、それは手放した子どもに伝えるようなことではないだろう。母はあれから別の人生を生きてきたのだ。言えないことも、伝えるべきではないこともたくさんあるだろう。だから、僕はそれを知らなくてもいい。
 僕へ伝えられることに関しては精一杯言葉に託して書き綴ったようにしか思えない文章と筆致。
 便箋の上に綴られた母の言霊の向こうに、確かな母の存在を感じ取った。
 それで十分じゃないか。この便箋三枚分の母の言葉で十分だ。
 たぶん、きっと。
 そんなことを思いつつ逍遥していたら、空が明るんできた。
 新しい日が、また、始まる。