a wedding

 友人の結婚式の2次会の場所で。
 そこかしこに日々の縺れから解き放たれた会話が聴こえる。
 ちょっと抜け出して、会場の外にある非常階段で煙草を吸う。
 そこではじめて、おめでとう、という言葉を聴く。
 喧騒の中では放たれない、意識からの言葉を聴く。
 直接には伝わらないが、きっと、伝わっているだろう。
 そう思いたい。

 そのあと、もうひとつの声も聴こえた。
 あのひとや、そのひとのような人生は、君にそぐわないよ。
 他人を不幸にしちゃいけない。
 そんな、僕の中の僕の声。

 わかっているよ。復習として聞いておくよ。
 ありがとう。
 幸福が満ちる空気の中、忘れそうになっていた。
 助かったよ。

 会場に戻る。
 また、みんなが作り出す幸福の波に乗るタイミングを見計らって、よいしょっと。
 僕も、しあわせ。
 ありがとう。

 お幸せに。決まり文句な、余計なお節介の言葉だけど。

 さ、今日の残りの仕事を片付けよう。
 空が赤くなりはじめるまでには、片付けよう。
 否定も肯定もなく、生きることは、ただただ続く。
 分相応に、ただただ続く。
 
 それでじゅうぶん。

 向こう側に行こうとしても、ただただ溺れるだけ。
 何をやっても、溺れていたな。
 そのうち、見たこともない陸地にあがっていたりして。
 ここかな、と思って気づいたら、また水の中だったりして。
 くり返しだなぁ。
 溺れずに酸素を吸うって、難しい。

 昔から、泳ぐのは不得意だったなぁ。
 そういえば。
 だから、無理もないか。

 でも、泳ぐんだ。
 まだ。