a porch

 部屋のベランダの一角に、木の枝が寄せられている。日々、それらは本数を増やしていく。最近、二羽の鳩が頻繁にやってくる。鳩たちの仕業なのだろうか。
 一日の始まりを告げる朝の陽の光が窓から射し込み始める時間になると、パタパタと羽音をさせて、彼女/彼らはやってくる。止まり木代わりのベランダの欄干に舞い降りると、「ホロー、ホロロ」と啼く。近頃はそれを合図にして、僕の朝が始まるようになった。
 つがいなのだろうか。一羽の鳩は、顔が白い。そこだけ染め抜かれているかのように、白い。もう一羽の方は、一見したところ、普通に見かける格好の鳩である。
 今日の昼下がり、昨日干した洗濯物を取り込もうとベランダにつながる窓を開けたときだった。バタバタという羽音とともに二羽の鳩が眼の前に張られている電線へ向って、ベランダから飛び出していった。どうやら、彼女/彼らの邪魔をしたようだ。
 目的の洗濯物を取り込み、季節柄まだ乾いていないものを残して、再び窓を閉めた。鳩が戻ってくるのかを確かめるために、部屋の中で息を潜めて鳩の様子を窺ってみることにした。我ながら長閑なものである。
 二羽はしばらく、電線の上に留まっていた。こちらの様子を、そしてベランダの様子を窺っているようだ。お互いに窺い会うという滑稽な関係が、そこには成立していた。
 意を決したのか、顔の白い鳩がベランダに舞戻ってきた。通りの方へ顔を向け、止まる。続いてもう一羽が戻ってきた。
 後から戻ってきた鳩は、ベランダにあるエアコンの室外機と妙な色に塗られた壁との小さな隙間に身を入れた。そして、丸くなった。冷たい風を避けようとしているのか。それとも、これからの繁殖に備えての予行練習なのだろうか。妄想が膨らんだ。顔の白い鳩はさっきと変わらぬ姿勢で、ベランダの外を、鳩特有の首や頭を絶えず動かしながら、見守っている風情だ。
 この部屋に、僕の営み以外の営みがある。それは何かの兆しなのだろうか。それとも、自然の流れなのだろうか。僕はただただ空想をめぐらせることしかできない。
 陽も暮れて、鳩はどこかへ飛び去っていった。また戻ってくるといいな、と思う。
 当分の間、洗濯物は夜に干さなければ。