what is indispensable for my life?

 少し時間ができた。
 新規開拓というか、新しい職場探しのための履歴書を打ち出すのに、プリンタの黒インクがないことに気付いた。渋谷まで足を伸ばし、ビックカメラで再生品を購入した。
 せっかく渋谷まで来たのだから、ディスク・ユニオンに寄らないわけには行かない。金はない。しかし、こういうときに限って出物がある。今日もそのパターンだった。
 ぼうっと考え事をしながら歩いていたら、ユニオンの入り口を通り過ぎてしまった。平日だというのに人が溢れている渋谷は苦手だ。しばらくして気づいて引き返し、地下のジャズ・フロアへと通ずる階段を降りていった。そして、店内をふらふらしながら物色すると……、

 “Bill Evans Trio - Live In Paris 1972 Vol.1~3”

 見つけてしまった。いや、見てしまった。バラではなく、3枚セットで揃っていた。当然、その3枚は僕の手の中に収まった。Miles Davis, Michel Petrucchianiと併せて購入。ジャズ初心者はがんがん行くしかないのだ。また借金が膨らんだ。

 行きがけにやせっぽちの黒猫に出会った。まだ子猫のようだった。道の脇に力なく座っていた。おそらく子離れしたばかりだろう。
 カメラを取り出して黒猫に向けた。反応はない。
「にゃ、にゃ~か?(腹、減ってるんだろ?)」
 僕は問いかけた。
 すると黒い子猫は、
「ニ"ャゥ。ニャ~ッ(いいよ。どうせくれないんだろ)」
 と、かぼそい声で答えた。
 その通りで、僕は野良猫に食物を与えることはしない。地域猫の場合、耳にそれとわかる印が付いているのなら良いのだが、この黒猫の耳にはそれがなかった。
 それでも僕はその黒猫を追いかけて、撮った。近寄らせてくれるのだが、触れようとすると飛びのいた。しかし、動く気力がないのだろう。少し歩くと道の真ん中でもおかまいなしにへたりこんでしまう。
 その傍らを、保育園の子供たちが保母さんに誘導されながら通り過ぎていった。
 親に、大人に護られて何の不足もなく生きる子供たち。
 そして、腹をすかせているやせっぽちの黒い子猫。
 その対比が、なにか、せつなかった。

 帰り道、行きと同じ道を通った。あのやせっぽちの黒猫が車に轢かれていやしないか心配だったからだ。
 姿は見当たらなかった。

 家でBill Evansを聴いた。JBL4311A-WXから当時の会場の雰囲気が溢れ出てきた。
 かたや、暖かい拍手と歓声を送る名もなき聴衆。
 かたや、内なる狂気をとんでもなく美しい旋律と音色に載せて、これでもかとばかりに解き放つBill Evans。ピアノとドラッグがないと生きていけなかった人。
 そんなことを思わせる音がした。

 黒猫はご飯にありつけただろうか。暖かい家を見つけられただろうか。


 今日の一曲:“Autumn Leaves” by Bill Evans Trio
 …… ちょっと時代が古いものだけど、演奏は“Live In Paris”とほとんど同じ。ベタでごめんなさい。