confusion

 泊りがけの仕事をした。
 薬を持っていくのを忘れた。
 そして、薬効が切れた。

 離脱症状がでてきた。
 脳みそが鷲づかみにされた。
 自律神経が壊れて、不整脈、動悸、過呼吸、発熱、発汗、幻聴、幻覚などがくり返しあらわれた。
 心臓がものすごいスピードで変拍子を打つ。ドン、ドン、ドドン、ド、ドドドン。痛みを感じる。苦しい。
 眼を閉じると、ネガティヴなイメージがくり返し網膜のスクリーンに映し出される。
 蝉の鳴き声が耳から離れない。
 結局、まる二晩、一睡もできなかった。
 ベッドの上でもがき続けた。
 ホテルの窓から飛び降りる一歩寸前まで行った。
 下を見ると、一匹の黒猫が閉店した向かいの店の軒先に座っていた。
 目が合った。
 窓に映る僕の姿を見ると、廃人寸前の顔をした一人の人間がそこにいた。
 なぜかはわからないけれど、その時、身を投げ出すのをやめた。

 それでも、仕事はこなした、と思う。
 ほとんど何も憶えてはいないのだが。

 仕事を終え、家へ四時間かけてたどりついた。
 すぐに坑鬱剤を飲み、睡眠薬をあおって、眠った。
 目覚めると、症状が安定していた。
 僕の生活は薬に支えられているんだな、としみじみ思った。
 それがいいことなのか、悪いことなのか、わからない。

 だけど、まだ、生きていたい。
 なぜかはわからないけど。

 今日の一曲:"Born To Be Blue" by Helen Merrill