過去の囚われから抜け出すことはなかなか難しい。
特に空想や妄想好きの僕にとってそれは甚だ困難なことだ。
たとえこれからやってくる先行きのことを考えていても、
ふとしたきっかけでいつかきた道に引き戻されていることが多い。
歌のリリック。
メロディ。
ギターの鳴り。
スネアの打ち方。
つないだ手。
手のひらと手のひらの間。
救急車とそのサイレン燈の赤。
春の雨。
JAM。
明治学院。
川崎。
空気の肌触り。
吹き抜ける風の響き。
帰り道にある小さな公園。
ワタリウム。
白金から目黒駅に向う途中の住宅街。
足音。
似た人。
想像を邪魔するメールの受信音。
自転車に乗った女の子。
0:00の渋谷と中目黒。
下北沢ZOO。
就職失敗。
あの曲がり角。
味。
花火。
黒アゲハ。
3:15の鑓ヶ崎の交差点。
gazebo。
キノエトラ。
偶然。
ずれた運命を感じてしまうような空模様。
時計の針がつくるその形。
始発電車に向う道すがら。
月の満ち欠け具合。
猫の鳴き声。
リストカットの痕跡が穿たれた腕。
皆既月食。
君の髪の手触り。
君の笑い声。
三宿のampm。
web。
プリンスのドルフィン。
インクスティック芝浦。
cafe carat。
白石川。
23:00の泉岳寺。
似た服。
サングラス。
戸塚。
船着場。
朝焼け。
夕焼け。
冬の雨。
降る雪。
嘲う夏の太陽。
シネセゾン。
シネマライズ。
名画座。
頭を打ちつけること。
大樽。
田道の遊歩道。
終電直前の石川町。
女性の笑い声。
あの帰り道。
無印の自転車。
雲。
4:45の下北沢。
返せそうもない借金。
桜。
夢の中のできごと。
ゴロワーズ。
マルボロメンソールライト。
キャスターマイルド。
パンプス。
落選続き。
ひこうき雲。
タンジェリン色のiMac。
電車のドアが閉まる音。
くることのない返信。
レコード屋。
目黒シネマ。
吉祥寺。
戸塚登山と下山の道。
つまらないB級映画。
あのビルの階段。
西荻窪。
いせや。
靴。
唇。
似た後姿。
髪。
匂い。
仕事がないときに君のことを考えること。
行きかった大学からの小さな封筒にとても似ている封筒。
君が僕に放った言葉。
文字として浮かんでいるあなたの言葉。
中目黒駅前にある、パチンコ屋の前。
日記。
プジョーの茶色のミニヴェロ。
ひとりぼっち。
失業。
新たな取引先との契約。
綾瀬への引っ越し。
ギターを捨てた。
ベースを捨てた。
音楽を創り奏でるのをやめた。
ビアンキのチェレステ・グリーン色のミニヴェロ。
毎日の吉野家、並。
日々の添削。
削がれていく心。
増える投薬。
新しい美容院。
プジョーの紺色のシティ・サイクル。
テクノロジーの発達による過ぎ去った人々との再びの邂逅。
2015年のフジロックに流れていった音と時間。
Wilko Johnson との邂逅。
――――――
ふとしたきっかけはいたるところ無数にある。
そのときそのときの数だけ無数にある。
それらのどれからも逃れられない。
それらのどれも消すことはできない。
それらは僕を捉えて、本当の僕を見せてくれる。
僕は全部間違っているんだよ、って。
いつからこうなってしまったんだろう。
思い出せない。