chills (re-write)

 昨晩から始まった悪寒と頭痛が収まらないので、内科へ行った。
 明日から後期の仕事開始だというのに。
 身体を震わせつつ、自転車を部屋から出してそれを担ぎながら、マンションの階段を降りる。
 ふらつきながら自転車に跨り、いつもの内科へ向った。
 夕方4時。待合室には誰もいなかった。
 すぐに診察してもらった。
 薬を処方してもらうとき、坑鬱剤と坑不安薬と胃腸薬の飲み合わせを聞いた。
 大丈夫と言われ一安心。
 診察室をでると、待合室のベンチに一山越えたぐらいな感じの仲の良さげなセンスの良いアヴェクがいた。
 見てくれだけではなく、ふたりが醸しだす雰囲気にやられた。
 支払を済まそうとバッグから財布をだそうとしたが、手が震えて上手くつかめず落としてしまった。
 その光景をふたりは不思議そうに何も言わず眺めていた。
 身体の状態だけではなく、そのふたりのありかたと僕のありかたの差も震えの原因になっていた。
 埋められない距離。生の横溢と消長。過去の質量の差。病院という場所でのふたりというありかた。
 行かなければならない道を行く者たちと行ってはいけなかった道を戻れずに歩く者の差。
 いままで僕が欲しても一度も手に入れられなかったものが、そこにあった。
 人は人を選ぶ。感覚で。計算で。表層で。音質で。肌で。つながり方で。そして、存在そのもので。
 僕も選び選ばれ捨て捨てられを繰り返してここにいる。
 ついぞ選んでほしい人には選ばれず、選びたかった人へ続く門の鍵を持つことはなかった。
 選ばれし人たちを横目で見ながら、自分もいつかはと生きてきて、ここにいる。
 そんなことを一瞬一瞬思い出しつつ、落とした財布を拾いあげ支払を済ませた。そして隣の薬局へ薬を受け取りに行った。
 10の歩を進める間、柄にもなく、そして自らへ禁じていたはずの感情「羨ましい」を抱えながら。
 でも、涙は出ない。これでも泣けないのなら本物だろう。
 薬の飲み合わせの確認を再度薬剤師にした。
 病院の雨どいのパイプにつないでおいた自転車の鍵を外し、家路についた。だが勝手にハンドルは公園へ向っていく。
 何もなかった。誰もいなかった。缶コーヒー1本と煙草を1本。
 帰り道コンビニに立ち寄り、助六を買った。
 買った、ということは、まだ、米が腹の中に入るだけ自分は元気なのだろうと思う。
 それを食してから、薬を飲む。
 薬を押し出している途中で何の薬を何錠出したのか分からなくなった。
 ぼけている。
 とにかく全種類の薬を左の手のひらにそろえて構わず口の中に放り込みエビアンのボトルに入れた水道水で飲み下した。

 講師会で人生の先輩から頂いたDVDもパソコンが読み込まず、未視聴のまま。
 プレステ2も壊れているし、なんだかなぁ。
 ウウウウ、見たい。
 盤に刻まれた溝を見れば音像が分かるレコードのようであればいいのに。
 CDやDVDはそうもいかない。
 このパソコンも年長さんなのだ。でも、あと2、3年は活躍していただかないと。
 一寸先は闇なのに。

 難儀なものである。

 洗濯しなきゃ。

 睡眠薬が効かない。熱が下がり、頭痛が収まって少し楽になったが。
 眠ってしまいたいのに。
 できれば、ずっとそのまま、目がさめなければいいのに。
 あるいは、100年休めたら、また仕事に復活できるような気がする。

 まだ、生きている。これを書いている。