finger, hand.

荒れた指を見た。
今日、飲食を目指して修行中のひととお茶をしていて、ふと見えてしまった。
コップを持った右手の中指の側面の肌が荒れていたのが見えた。
所々、血が滲みそうなくらいに小さく切れていた。
そのひとの薄い肌の色が、そこだけ赤味を帯びていた。
本人曰く、これでも今日は休日で薬を塗っているから大分良い状態、なのだそうだ。
古くから知っているひとだけれど、飲食を目指す前、デスクワークの仕事をしていたときは、
薄くて木目細かな肌をまとった、所謂世間で言うところの「女の子の手」を持っていた。
今は、ほぼ毎日、包丁を握り、肉や魚、野菜などの食材を扱い、パン生地を捏ね、水を使いこなし、火と戯れている。
自然、手の厚みが増している。頻繁に使う指の肌が荒れている。
爪が短く切り込まれた指やその手に触れさせてもらって、分かった。
反対に僕の手の弱弱しさが際立ってしまった。
僕の手は、薄い。苦労のない、手。荒れのない、指。
恥ずかしくなった。
年上であることに、手荒れのない仕事をしていることに、何か恥ずかしさを覚えた。
抱く理由なんてない恥ずかしさ、もどかしさに似た恥ずかしさだった。
意味のある生産する者と、意味のない生産をする者。
今日、そこに見えたのはそれらの間にある差異だった。
肌合いというのは如実にその差異を顕にしてくれる。
僕はこうしてキーを打ち続けて、生活のために声を出しているだけだ。
僕は生命から遠く離れたところで動いている。
彼女は生命にとても近いところで動いている。

――――――――――――――――――――

「今日の1曲」:"John, I'm Only Dancing" by David Bowie

… でも、楽しかったよ。

――――――――――――――――――――